本記事では、タイ語で「電話、電話する」を意味する単語「โทรศัพท์(トーラサップ/thoora-sàp)」の語源について見ていきます。
先にポイントをお伝えします。
- โทรศัพท์(トーラサップ)は、「遠い」を意味するโทร-(トーラ)と、「声、語」などを意味するศัพท์(サップ)からなる語
- โทร-(thoora)はサンスクリット語dūra-(ドゥーラ)が、ศัพท์(sàp)はサンスクリット語śabda-(シャブダ)が語源
- โทรศัพท์はtelephoneの訳語として制定された語で、tele-とโทร-が、phoneとศัพท์がそれぞれ対応している
では、詳しく見ていきます。
โทรศัพท์ 読み ※カタカナは参考程度 | thoora-sàp トーラサップ |
---|---|
โทรศัพท์ 意味 | 電話 電話する(←会話では省略形「โทร(thoo/トー)」で使われることが一般的) |
品詞 | 名詞、動詞 |
原語 | サンスクリット語 ※telephoneの訳語として制定された語 |
タイ語「โทรศัพท์(トーラサップ)」の語源
タイ語「โทรศัพท์(トーラサップ/thoora-sàp)」は、「遠い」を意味するโทร-(トーラ/thoora)と、「声、語」などを意味するศัพท์(サップ/sàp)からなる語。
語源は、サンスクリット語「dūra-/ドゥーラ(दूर-)」と、サンスクリット語「śabda-/シャブダ(शब्द-)」です。
- โทร-(遠い)
←サンスクリット語「dūra-/ドゥーラ(दूर-)」 - ศัพท์(声、語、語彙)
←サンスクリット語「śabda-/シャブダ(शब्द-)」
それぞれの語の語源を見ていきます。
語源①「dūra-/ドゥーラ(दूर-)」(サンスクリット語)
「โทรศัพท์(トーラサップ)」前半の「โทร-(トーラ/thoora)」は、「遠い」を意味するサンスクリット語「dūra-/ドゥーラ(दूर-)」から来ています。
サンスクリット語 単語 (読み) | दूर- dūra- (ドゥーラ) |
---|---|
サンスクリット語 単語 (タイ文字表記) | ทูร |
意味 | 遠い |
サンスクリット語「dūra-(ドゥーラ)」の母音の音が「u」から「o」に変化してタイ語「โทร-(thoora/トーラ)」になっています。
※パーリ語にも「dūra-」という語がありますが(意味も同じ「遠い」)、タイ日大辞典やこちらの資料(タイ語)では「โทร-(トーラ/thoora)」はサンスクリット語由来の語とされており、それを受けて当サイト内でもサンスクリット語語源の語としています。
サンスクリット語・パーリ語の子音「d(サンスクリット語の子音字「द」)」は、タイ語(タイ文字)の「th(ท)」に対応しています(※対応関係がわかる一覧表はこちらからダウンロードしていただけます)。
パーリ語
サンスクリット語
d(द)
↓
タイ語(タイ文字)
th(ท)
語源②「śabda-/シャブダ(शब्द-)」(サンスクリット語)
「โทรศัพท์(トーラサップ)」後半の「ศัพท์(サップ/sàp)」は、サンスクリット語で「音、声、語」を意味する「śabda-/シャブダ(शब्द-)」がその語源です。
単語 (デーヴァナーガリー文字) | शब्द- |
---|---|
単語 (読み) | śabda- (シャブダ) |
単語 (タイ文字 表記) | ศพฺท |
意味 | 音、声、語 |
品詞 | 名詞 |
この「ศัพท์(サップ/sàp)」が入る単語には、他にも次のような語があります。
タイ語単語【一例】
単語 | 意味 |
---|---|
คำศัพท์ kham-sàp カムサップ | 単語 |
คำทับศัพท์ kham-tháp-sàp カムタップサップ | 外来語、借用語 ※ทับศัพท์(タップサップ):訳音の、借用した |
คุณศัพท์ khunna-sàp クンナサップ | 形容詞 |
โทรศัพท์(トーラサップ)はtelephoneの訳語
telephoneの訳語として制定されたโทรศัพท์
โทรศัพท์は、英語telephoneの訳語として制定された語(ศัพท์บัญญัติ/サップ・バンヤット)で、タイ日大辞典によるとラーマ6世による造語とされています。
この語が造られるまでは、外来語เทเลโฟน(teeleefoon/テーレーフォーン)が用いられていたとのこと。
【ศัพท์บัญญัติ(sàp-banyàt/サップ・バンヤット)】
:学術語や外国語の訳語として学士院などが策定した語
【บัญญัติศัพท์(banyàt-sàp/バンヤット・サップ)】
:外国語の術語などの訳語を制定すること
tele-とโทร-が、phoneとศัพท์がそれぞれ対応関係にあります。
石井米雄先生のエッセイでも紹介されていましたが、英語telephoneはギリシャ語で「遠方の」を意味する「tele-」と「音」を意味する「phone」が語源と言われており、意味も含めタイ語のโทร-(thoora)、ศัพท์(sàp)と対応していることが見て取れます。
第24回 (2003年4月)
すっかり日本語になってしまった「ビデオ」と「オーディオ」。このふたつのことばの共通項は何でしょう。Video もaudioも、どれもラテン語の動詞形で、「わたしは見る」「私は聴く」という意味です。Video は変化して vis-という形でたくさん英語に入っています。まずvision 。もともと「視力」「視覚」という意味でしたが、「心に描く像」ということから「展望」となります。「政治家にはビジョンが必要だ」など、このことばは日本語でもそのまま使いますね。形容詞にしてvisible とすれば「目に見える、可視の」という意味。それに「遠方の」という意味のギリシャ語tele-をつければtelevision、おなじみの「テレビ」となります。ついでのことながら telephone はどうでしょう。Tele+phone。これはラテン語ではなくギリシャ語の方。Phone はもともと人間の「声」の意味から、一般に「音」をあらわすようになりました。と、ここまでいえば電話がtelephone である理由は説明不要でしょう。
神田外語大学 石井米雄 エッセイ 語源の楽しみ https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/essay/7695/
ラーマ6世により制定された造語(ศัพท์บัญญัติ/サップ・バンヤット)は、他にもธนาคาร、ตำรวจ、บริษัท、จักรยาน、โทรเลขなど、数多くあります。
【参考】カンボジア語で「電話」を意味する語
タイの隣国カンボジアの言語であるカンボジア語(クメール語)も、タイ語と同様インド系言語であるパーリ語やサンスクリット語が由来の語が多数あります。
カンボジア語で「電話」を意味する語は「ទូរស័ព្ទ(トゥールサプ)」と言います。
この語は、タイ語と同じくサンスクリット語「dūra-/ドゥーラ」と「śabda-/シャブダ(शब्द-)」が語源とされています(カンボジア語に「s」は一文字しかなくタイ文字「ศ」に対応する文字は現在は存在しないので、原語の綴りはśaですがស(タイ文字สに相当)が用いられています)。
4文字(ส/ศ/ษ/ซ)あるタイ語とは異なり、カンボジア語で「s」を表す文字は1文字(ស)。
— Sripasa (@sripasaa) June 17, 2022
なお、現在は廃字のようですが、かつてはクメール文字にも
ś(श)に対応した「ឝ」(タイ文字ศ)
ṣ(ष)に対応した「ឞ」(タイ文字ษ)
この2文字があったようです(表内では括弧書きで載せています)。
興味深い点は、タイ語とは異なりカンボジア語の方は、前半の「ទូរ-(トゥール)」は原語の母音から音が変化せず「u(ウ)」が残っている点です。
このことから、タイ語が「ทูร-(thuura)」とならずに「โทร-(thoora)」になったのは、タイ側で起きた変化と言えそうです。
【まとめ】タイ語「โทรศัพท์(トーラサップ)」の語源
本記事では、タイ語で「電話、電話する」を意味する単語「โทรศัพท์(トーラサップ/thoora-sàp)」の語源について見てきました。
最後にまとめます(冒頭で述べたポイントと同じ内容)。
- โทรศัพท์(トーラサップ)は、「遠い」を意味するโทร-(トーラ)と、「声、語」などを意味するศัพท์(サップ)からなる語
- โทร-(thoora)はサンスクリット語dūra-(ドゥーラ)が、ศัพท์(sàp)はサンスクリット語śabda-(シャブダ)が語源
- โทรศัพท์はtelephoneの訳語として制定された語で、tele-とโทร-が、phoneとศัพท์がそれぞれ対応している
本記事は以上になります。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
https://www.culi.chula.ac.th/Images/asset/pasaa_paritat_journal/file-28-244-uz5i34814112.pdf
語源を当ブログに掲載しているタイ語単語
タイ語の他の単語の語源もご紹介しています。
ぜひ他の記事もあわせてご覧ください。
他の単語を調べる
- 冨田竹二郎/赤木攻編『タイ日大辞典』
- 宇戸清治編『パスポート初級タイ語辞典』
- พจนานุกรม ฉบับราชบัณฑิตยสถาน พ.ศ. ๒๕๕๔
(書籍/無料アプリを利用) - 荻原雲来編纂『漢訳対照 梵和大辞典』
- Monier-Williams : A Sanskrit-English Dictionary
(通称『モニエル(辞典)』) - 雲井昭善著『新版 パーリ語佛教辞典』
- 水野弘元著『増補改訂 パーリ語辞典』
- 辻直四郎著『サンスクリット文法』
- Jゴンダ:サンスクリット語初等文法
- https://th.wiktionary.org/wiki/วิกิพจนานุกรม:หน้าหลัก(タイ語)
- https://www.manduuka.net/sanskrit/index.htm