2018年は10月24日がワン・オークパンサー(วันออกพรรษา/wan ʔɔ̀ɔk phansǎa/出安居(であんご))でした。
ワン・オークパンサーは、『雨安居(うあんご)明け』とも呼ばれ、僧侶の厳しい修行期間が終了する日のことです。
専門家によるとワン・オークパンサーは、以下のように説明されています。
雨安居(うあんご)は、雨季(パンサー)に出家者が寺院にこもり、持戒などの修行に勤めたことに由来する。
出所:日本タイ学会著『タイ事典』p33 より引用
出安居(であんご)の日はタイ語で「ワン・オークパンサー」と言います。
雨季が過ぎ、三か月間寺に修行でこもって外泊を禁じられていたお坊さんが外泊を許される日です。
出所:中島マリン著『タイのしきたり』p227 より引用
本記事では出安居の翌日に行われる仏教行事と、、オーク・パンサーの「パンサー(พรรษา)」の語源についてご紹介します。
ワン・オークパンサーの翌日にタイで行われる仏教行事
ワン・オークパンサーの翌日(2018年は10月25日)の朝についてのニュースです(放送はその翌日の10/26)。
ชาวพุทธตักบาตรเทโวคึกคัก ห้างดังโคราชนิมนต์พระลงบันไดเลื่อน บิณฑบาตกลางห้าง #เรื่องเล่าเช้านี้https://t.co/SX2MjaUhuL pic.twitter.com/HjaKFXLtUW
— เรื่องเล่าเช้านี้ (@MorningNewsTV3) October 26, 2018
こちらのツイートは、タイ東北部コラート(ナコンラーチャシーマー県)にある、ショッピングセンター「ターミナル21」の様子です。
お坊さんだけがこんな風にエスカレーターに乗ってるのを見たことなかったので、最初見たときはビックリしました。
この、10月25日に行われた行事というのが、「タックバート・テーウォーローハナ/ตักบาตรเทโวโรหณะ」と呼ばれる仏教上の慣習です。
天界(テーワ・ローク/เทวโลก)から人間界に戻って来た僧侶が托鉢(たくはつ)を行い、人々は僧侶の鉢に食べ物を寄進します。
「เทโวโรหณะ/テーウォーローハナ」は、「テーウォー/เทโว」と略されることもあります。
意味は「天界から降りてくること」です。
ワン・オークパンサー(出安居)は、วันขึ้น 15 ค่ำ เดือน 11(旧暦11月の白分/上弦の15日)です。
ワン・オークパンサーの翌日、すなわち、วันแรม 1 ค่ำ เดือน 11(旧暦11月の黒分/下弦の1日)に、「タックバート・テーウォーローハナ/ตักบาตรเทโวโรหณะ」が行われます。
「タック・バート(ตักบาตร/tàk bàat)」は、「サイ・バート(ใส่บาตร/sài bàat)」とも呼ばれ、(人が)朝托鉢に来る僧侶の鉢に、食物を寄進(お布施)することです。
一方、これに近い表現として、
「ビンタバート(บินฑบาต/binthabàat)」
がありますが、こちらは、「僧侶が托鉢に出る」「(人が)鉢に入れてくれる物を、僧侶が受け取る」という意味で、行為の主体者が異なります。
「Terminal21」での仏教行事「タックバート・テーウォーローハナ」
今回のターミナル21での行事も、この「テーウォーローハナ」にちなんだものであったようです。
ชาวพุทธตักบาตรเทโวคึกคัก ห้างดังโคราชนิมนต์พระลงบันไดเลื่อน บิณฑบาตกลางห้าง #เรื่องเล่าเช้านี้https://t.co/SX2MjaUhuL pic.twitter.com/HjaKFXLtUW
— เรื่องเล่าเช้านี้ (@MorningNewsTV3) October 26, 2018
ですが、エスカレーターの映像がかなり特異でインパクトが強かったようで、見た人からは
と言う声が上がり、SNS上で話題になったとか。
お寺によっては、階段から降りてきたりするようです。
タイ語「パンサー(พรรษา)」の語源
「ออกพรรษา(オーク・パンサー)」の「ออก(ʔɔ̀ɔk/オーク)」は「出る」という意味の動詞です。
一方、「พรรษา(phansǎa/パンサー)は「雨季」などを意味する語で、サンスクリット語で「雨の季節」を意味する「वर्षा-(varṣā-/ヴァルシャー)」が語源です。
もう少し掘り下げて見ていくと、サンスクリット語「वर्षा-(varṣā-/ヴァルシャー)」を分解すると、「雨を降らせる」という動詞語根√वृष्(vṛṣ)に名詞を作る接尾辞āが付加されたものです。
同じ動詞語根√वृष्(vṛṣ)から派生した語に「वर्ष-(varṣa-/ヴァルシャ)」があります。これは「雨、雨季、年」を意味する語で、タイ語のวรรษ(wát/ワッ(ト))の語源になっています。
これを使ったよく出てくる語として、「世紀」を意味するศตวรรษ(sàtà-wát)や、「10年」を意味するทศวรรษ(thótsà-wát)があります。
ศตวรรษとทศวรรษ、前半部分の綴りが覚えにくいですが、サンスクリット語の数字(100と10)から来ているんですよね
— Sripasa (@sripasaa) July 29, 2022
ศต←「śata-/シャタ」が語源なので語頭はสではなくศに。
śa(श/シャ)→ศ(s)
ทศ←「daśa-/ダシャ」が語源なので語頭はตではなくทに、2文字目もสではなくศに。
da(द/ダ)→ท(th) pic.twitter.com/sRnMttizcG
また、「พรรษา」の”รร”の部分は「an」という少し特殊な読み方をします。この「ร」が2つ連続する場合、発音は以下の表の通り3通りに分けられ(大体は①か②)、今回は「an」という②の読み方をします。
こちらはご参考までに。
さいごに:おすすめの書籍
以下の2冊の本は、今回のような「タイのこと」を日本語で説明するのに、大変参考になります。
『タイ事典』は、慣習・歴史・社会・歴史上の人物、地方のことなど、多岐にわたり、簡潔にまとめてくれており、使い勝手の良い「事典」です。
『タイのしきたり』は、より文化・慣習に特化した内容ですが、マナーについて(何がタブーなのか)、家庭行事(誕生・出家・結婚・葬儀)、祝日の意味など、「かゆいところに手が届く」的な内容で面白いです。
【レビュー】タイ文化・タイ人について「もっと知りたい」方に読んでほしい『おすすめ本 3選+1』でも紹介しています。宜しければ是非ご覧ください。