本記事では、タイ語で「遂行する、実施する」といった意味を持つ単語「ปฏิบัติ(patibàt)」の語源を見ていきます。
タイ語 ปฏิบัติ | 説明 |
---|---|
単語 読み (発音記号) ※カタカナは参考 | ปฏิบัติ patibàt (パティバッ(ト)) |
意味 | 遂行する 実行する 実施する 行動する ふるまう |
品詞 | 動詞 |
原語 | パーリ語 |
タイ語「ปฏิบัติ(patibàt/パティバッ(ト))」はパーリ語から来ています。
詳しく見ていきます。
タイ語「ปฏิบัติ(patibàt)」の語源
タイ語「ปฏิบัติ(patibàt)」の語源は、「道、実践」といった意味を持つパーリ語「paṭipatti-」です。
【語源】パーリ語「paṭipatti」
パーリ語 paṭipatti- | 説明 |
---|---|
単語 | paṭipatti- |
タイ文字 表記 | ปฏิปตฺติ |
意味 | 道 行道 方法 実践 実行 到達すること、など |
品詞 | 女性名詞 |
【参考】サンスクリット語「pratipatti-」
サンスクリット語 प्रतिपत्ति-(pratipatti-) | 説明 |
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単語 (デーヴァナーガリー文字) | प्रतिपत्ति- |
単語 (読み) | prati-patti (プラティパッティ) ↑ prati+√pad+ti ※後述します |
単語 (タイ文字表記) | ปฺรติปตฺติ |
意味 | 獲得、取得、知覚、理解、認識 (〜における、に対する)計画、手続、行動、行為 |
品詞 | 女性名詞 |
※こちらでご紹介するサンスクリット語・パーリ語の訳語は、数多くある訳語の中から、タイ語の意味に照らし語源として説明がつく(と思われる)訳語を当サイト著者の独断で選んでおり、恣意的な要素が含まれますことを予めご了承ください。
【考察①】パーリ語接頭辞「paṭi-」とタイ語「ปฏิ-」
「道、実践」といった意味を持つパーリ語「paṭipatti-」の語頭は「paṭi-」です。
「paṭi-」は「〜の方に、〜に向かって、対して、戻って、更に、再び、対、反、逆」などを意味する接頭辞です。
この「paṭi-」をタイ語(タイ文字)で表すと「ปฏิ-」となります(音はpati(パティ)-)。
サンスクリット/パーリ語の子音「ṭ(ट)」は、タイ語(タイ文字)では「ฏ[音はt]」に相当します。
サンスクリット/パーリ語
ṭ
[ट]
↕︎
タイ語
ฏ
[t]
このパーリ語接頭辞「paṭi-」は、サンスクリット語では「prati(प्रति)-」となります(その場合、タイ文字で綴ると「ประติ-」)。
そのため、タイ語の単語の中で「ปฏิ(pati)-」ではじまる単語は、基本的にはすべてパーリ語が語源となっていると言えます。
ปฏิ(pati/パティ)-」ではじまるタイ語単語
「パーリ語が語源の単語
- ปฏิกิริยา(pati-kiriyaa)
:反応 - ปฏิทิน(pati-thin)
:カレンダー、暦 - ปฏิรูป(pati-rûup)
:改革する - ปฏิเสธ(pati-sèet)
:否定する
【考察②】「p」から「b」への音の変化
タイ語「ปฏิบัติ(patibàt)とその原語「paṭipatti-」を比べてみると、パーリ語/サンスクリットの「p[प]※タイ文字表記では[ป]」の音がタイ語では「b[บ]」になっていることがわかります。
【パーリ語】
paṭipatti
↓
【タイ語】
patibàt
サンスクリット/パーリ語の「p[प(ป)]」は、タイ語に入った際に「b[บ]」になることがよくあります。
他の単語も例に挙げてみます。
タイ語 【b[บ]】 | 原語 (インド系言語) 【p[प]】 |
---|---|
บาป:悪 (bàap/バープ) | pāpa- (パーパ/पाप-) |
บิดา:父 (bìdaa/ビダー) | [パーリ語] pitā- (ピター) [サンスクリット語] pitṛ- (ピトル/पितृ) |
บัตร:券・票 (bàt) (バッ(ト)) | [サンスクリット語] pattra- (パットラ/पत्त्र-) patra- (パトラ/पत्र-) |
บริษัท:会社 (bɔɔrisàt) (ボーリサッ(ト)) | [サンスクリット語] pariṣad-(parishad-) (パリシャド/परिषद्-) |
บุรุษ:男性 (burùt) (ブルッ(ト)) | [サンスクリット語] puruṣa-(purusha-) (プルシャ/पुरुष-) |
ปฏิบัติ:遂行する、実行する (patibàt) (パティバッ(ト)) | [パーリ語] paṭipatti- (パティパッティ) [サンスクリット語] pratipatti- (プラティパッティ/प्रतिपत्ति-) |
【参考】サンスクリット語「prati-patti(プラティパッティ)」を分解
サンスクリット語「prati-patti(プラティパッティ)」を分解してみます。
接頭辞:prati
(プラティ/प्रति)
:に対して
〜の方へ
前に
〜に関して、など
+
動詞(語根)√pad
(パド/पद्)
:落ちる
〜へ行く、など
↓
prati-pad
(プラティ-パド/प्रतिपद्)
:入る
得る
獲得する
引き受ける
実行する
果たす、など
↓
過去(受動)分詞:prati-panna
(プラティ-パンナ/प्रतिपन्न)
:獲得された
得られた
過去分詞(厳密には「過去受動分詞」)は
動詞の語根に「ta(タ/त)」を添えて作られるが、動詞(語根)がdで終わる場合は「na(ナ/न)」を添えて作られる(ことが多い)。
↓
動作名詞:prati-patti
(プラティパッティ/प्रतिपत्ति)
:獲得
(〜における、に対する)行動、など
(語末のta(त)(またはna(न)を除いたもの)+「ti(ति)」
=動作名詞「〜こと」
より分かりやすいためサンスクリット側の語を用いて説明しましたが、パーリ語でも同様に接尾辞「ti」は動作名詞を作ります。
タイ語では、他にも語末が「ติ[ti]」となっている単語があります(以下の表をご参照)。
【タイ語単語】 語末「ติ」 =動作名詞を作る「ti」 | 語源 |
---|---|
ชาติ[châat] | jāti– (サンスクリット/パーリ語) |
มติ[mátì] | mati– (サンスクリット/パーリ語) |
ญัตติ[yáttì] | ñatti– (パーリ語) |
ญาติ[yâat] | ñāti– (パーリ語) |
สติ[satì] | sati– (パーリ語) |
ยุติ [yúttì] | yutti– (パーリ語) |
เกียรติ [kìat] | kīrti– (サンスクリット語) |
สันติ [sǎntì] | santi– (パーリ語) |
อคติ [ʔà-khátì] | agati– (パーリ語) |
คติ [khátì] | gati– (パーリ語) |
ปฏิบัติ [patibàt] | paṭipatti– (パーリ語) |
上の表で挙げた単語の語末「ติ」は、すべて動作名詞を作る接尾辞「ti(ति)」がついたことによるものです(一部仮説を含みます)。
各単語のページ内で、タイ語の「ติ[ti]」とサンスクリット/パーリ語の接尾辞「ti(ति)」について解説・考察していますので、よろしければご覧ください。
【まとめ】タイ語で「遂行する、実行する」を意味する「ปฏิบัติ(patibàt)」の語源
本記事では、タイ語で「遂行する、実行する」といった意味を持つ単語「ปฏิบัติ(patibàt)」の語源について見てきました。
まとめます。
パーリ語「paṭipatti-」
本記事は以上になります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
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- พจนานุกรม ฉบับราชบัณฑิตยสถาน พ.ศ. ๒๕๕๔
(書籍/無料アプリを利用) - 荻原雲来編纂『漢訳対照 梵和大辞典 』
- Monier-Williams : A Sanskrit-English Dictionary
(通称『モニエル(辞典)』)
(https://www.manduuka.net/sanskrit/dic/mwdic.htm) - 雲井昭善著『新版 パーリ語佛教辞典』
- 水野弘元著『増補改訂 パーリ語辞典』
- 辻直四郎著『サンスクリット文法』
- Jゴンダ:サンスクリット語初等文法
- 菅沼晃著『新・サンスクリットの基礎』[上・下巻]
- https://th.wiktionary.org/wiki/วิกิพจนานุกรม:หน้าหลัก(タイ語)
- https://www.manduuka.net/sanskrit/index.htm
- https://www.sanskrit-lexicon.uni-koeln.de